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第25話/ロサンゼルス

主な話者:うさぎ ロサンゼルス、天使の街。それは、軍用機の街 この街に展開したレイシズム(人種主義) 偽装だらけの「知」 ✦ 明るい日差し、光る海…そんな「イメージ」の街、ロサンゼルス。 たくさんの映画、テレビシリーズがつくられる、映像の街。 そんな絵とは違って、この街は、軍用機生産の都だった。そのことを、多くの人は知らない。 軍需産業と言えば、ここ水の街から近い、名古屋も主要な軍需生産地だったと聞く。だから空爆も激しかったそう。 そういう話はあまり聞かない。 刑事コロンボ、レイモンド・チャンドラーさんも、LAに縁があるそうだ。 「偽装」、イメージづくり。灰色が思わせたい通りに、人びとは思わされている。 もちろんロサンゼルスだけじゃない。灰色の偽装は、あらゆる場所にある。 思いもつかない身近なところにも。 そのことに気づいていたいと思う。 『うさぎ!』を通して気づいた、頭の中の「絵」の存在。いつの間にか頭の中に滑り込んでくる、偽りの知。 なぜ知っているのか、知らされているのか。立ち止まって考えたい。 ✦ 目次に戻る

第24話/原発

主な話者:きらら。雑誌「毎日の環境学」に書いた記事 原爆が投下されて始まったアトミック・エイジ(原子力の時代) サイオプ(心理学的作戦)としての、原子力の平和利用/原発 プライス=アンダーソン法(PA法)が開いた、原発推進の道 原発問題は軍事問題のように思える。きららは、そう結論づけます。 ✦ 衝撃の第24話。発表当時から反響がすごかったと聞きます。 2012年の夏(大震災から一年四ヵ月後)にも、この第24話は 著者の公式サイト「ひふみよ」で無料公開 され、先立って公開された「 金曜の東京 」というデモに関する文章とともに、話題を呼びました。 第24話は、大震災が起きて間もなく執筆されたようです(『子どもと昔話』の2011年夏号掲載)。著者の思いが響いてきます。 これを読んで、それこそ「イメージ」でしかなかった原発についてもっと知りたいと思い、いくつか関連する本を読んでみたり、ニュースに目を向けたりし始めることができました。 それまでは、目を背けていました。苦しくて、考えたくなくて。 でも無知は何も生まないし、何もしないことこそが、実は何かに加担することになっているのかもしれない、と『うさぎ!』を読んで考えが変わったのでした。 そして見えてきたのは、とある「専門家」さんたちの、敬意に値しない言動。それから、国の、無言の主張と嘘。いろんな人の、人びとの、過剰な煽り。怖がらせて脅して言うことを聞かせようとする、多方向からの作戦。 今まで「そんなことあるわけないよ」と思っていた事々だった。 放射線の影響に閾値はないとして、厳密な放射線管理を主張する専門家もいれば、少量の放射線は健康に役立つとして過剰な反応をいさめる人も。その産業に関わる死者数から考えて、原子力発電は他の方法よりはるかに安全だと主張する専門家もいる。 ただ、今の私に一番響いてきたのは、ある福島の人がインタビューに答えて「一時帰宅のとき、家の周りで地を這う生き物、ねずみや虫や、そういう生き物たちがみんな死んでいた」と言っていたこと。それから、原子力で電気を作ったあとの廃棄物が無害化するまで10万年かかるということ。このふたつで、ほぼ、自分の中では答えが出ている。 国のなりふりを見ていても、原子力の問題はエネルギーの問題だけではないこと...

第23話/エジプト革命

主な話者:トゥラルパン エジプト革命。トゥラルパンは、革命の前線で起こった何千人対何千人の生喧嘩の生中継を見ていました。 絵本の国では絶対に放送されない映像。 なぜか知っていること、なぜかまったく知らない、知らされないこと。その仕組み。 灰色は人びとの記憶を塗り替える。偽の知で埋め尽くす。 ✦ 今日のラジオニュース(NHK第一):ベネズエラの大統領選挙が、近日行われる。チャベス大統領は貧困層に対して厚い支援政策を行うなど、一部からは「ばらまき」の政策だと批判されていて、インフレの一因をつくったとされ、他候補への支持が高まっている。もし左派である現大統領の交代が決まれば、ロシアなどの国家関係への大きな影響が出ると予想される。 ロイターのネットニュース:反米左派のチャベス大統領の交代の影響は国内に留まらない。エクアドルなどの反米諸国への石油資源の融通などが停止されれば、中南米の各反米諸国の力も弱まるだろう。いくつかの調査では接戦、または対抗候補の支持が高まっているという結果。 MSNのネットニュース:反米の盟主、ピンチ! 『うさぎ!』を読むまでベネズエラが特筆されるべき国であることを知らなかった。 最近の新聞の国際面はシリアの内戦に多くの紙面が割かれていると思う。 ただ、今日は偶然、上にあるラジオニュースが耳に飛び込んできた。 “絵本の国では、人びとの注意力は鉄拳で握りしめられていて、簡単に飽和させられてしまう。お相撲やら何やら、その時々の小さな話題で。” 第23話、60頁 新聞を隅から隅まで読めば、多くのことが知れると思っていた。 学校では新聞を読めと教育される。社会人になったら新聞を読んでいないと、お客さんと話が合わない。 新聞社で校閲のバイトをしていたことがあった。 最新のニュースは社内アナウンスか、ロイター他からの電報。電報というのだろうか、記事が機械からべろべろーっと出力されて、それを雑用係が走っていって校閲記者(上司)に渡す。 重要な記事なら紙面が入れ替わる。その日に載せなくても後日載せられるネタは後回しにされる。記事の優先順位は厳密に決まっている。それを管理する、紙面の構成を決める部があり、これは重要ポスト。 記者が書いた記事を読んで、過去記...

第22話/もう古いの計画

主な話者:きらら 「うさぎ! 沼の原篇」が出てから「うさぎ!」についてよく質問を受けるきらら、よく聞かれる「もう古いの計画」について語ります。 「もう古いの計画」、プランドオブソレッセンスは大っぴらに言われないが、当たり前の考え方 買ったものをすぐに古いと感じさせ、次の新商品に向かわせる 「もう古いの計画」が引き起こしていること その存在が見えなければ、ぼやけて考えが始まることができない。 ✦ 時限装置が組み込まれている、と日本語では言う。 「○○タイマー」(○○には大手電子機器メーカーの名前が入る)と言って、決まった年月が来ると壊れるように仕組まれていると言う話。 笑い話で出てくる。「パソコンの調子が悪い」「タイマーが起動したんじゃないの?」「まさかー」という感じ。 そういう言葉が生じるほど、「もう古いの」計画は企業にとっても消費者にとっても当たり前のことなのだろう。 『うさぎ!』を読んでから、「従来品より消費電力を○%削減!」などの広告を見ると、「なんで開発段階からやらなかったんですか」と思うときがある。 でも読まなかったら気づいていなかったと思う。「○%削減かあ」としか思わなかったと思う。 小出しにする、壊れやすくする、使えなくする。 うさぎくんが話していた革靴のことを思い出す。使い捨てることがベースに置かれた生産。 子ども服なんかもそうで、ウエストのゴムを取り替えようとするとウエストのゴムごと縫いつけられていて取り替えられないとか、ゴムの替え口がないとか。 直すより買ったほうが安いし早いという状況。 確かに服に関して、私も以前はそう思っていた。子どもができるまでは。 子どもができたら、自分の服を選ぶ時間がなくなった。女の人は服を選ぶのにものすごく時間がかかる。子どもはその長い時間につきあえない。 だからネットで服を選ぶようになったんだけど、これまたすごく時間がかかる。サイズはどうか、色はどうか、在庫はあるか、お値段は、割り引きは…と延々時間がかかる。 フリルがついているといくら、レースがついているといくら、すきなブランドのものだといくら…と、オプションがずらっと並ぶ。選べない。 今や作ったほうが早いと思うようになった。自分で縫ったほうが早いし、ほしい形にできあがる。...

第21話/メキシコ

主な話者:うさぎ 友だちの結婚式に参列するため、うさぎたちはメキシコのハラパ市に来ていました。 基地帝国と相互に作用し合う国、未来世紀メキシコ。 車椅子の人がすいすいと働く空港 社会権を認めた初めての憲法、メキシコの1917憲法 社会、政治、文化への高い意識 暴力と共存し、生き抜くために知性を必要とする場所。 ✦ 第21話は、作品集「我ら、時」の中に綴じられた『うさぎ! 二〇一〇―二〇一一』という本の一番初めに出てくるお話です。 沼の原篇が幕を閉じ、新しく出発した回にも当たります。 メキシコに焦点が当てられ、とても読みやすい回。 私は『うさぎ!』の第1話をネットで読んでいて、その次に出会ったのがこの第21話でした。 話者がうさぎくんとつづられているにも関わらず、その第一人称「僕」を著者のことと取り違えて読み進めていました。 さて、メキシコ。 基地帝国の隣で力強く生き抜く国。知りませんでした。 銅山の国もそうですが、刀を突きつけられた国は賢くならざるをえないんですね。 じゃあどうして、体内に爆弾を仕込まれている絵本の国はそうならないのだろう? 危険を感じないように酔わされている。人びとが気づかないよう、周到に環境が用意されている。 基地の移転やオスプレイ配備といった木における木の葉の話題は新聞に上るのだけど、肝心な幹の部分や根の部分には焦点が当てられないように思う。 インディアン文化のきらめきが日常のそこかしこできらめく国。 そこで開かれた結婚式の光景が、まぶしい。友人代表が新郎新婦に贈った詩が美しいです。 ✦ 目次に戻る

第19話、第20話/小沢健二に聞く

(特別篇) 第19話と第20話で、ひふみよドットネットに掲載された、 小沢健二に聞く を再録。 2010年のひふみよツアーを前に、小沢健二さんにインタビューする人としてうさぎくんが手を貸すことになりました。それに当たり、うさぎときららが話し合っています。 紙というインターフェイス コンピューター氾濫の中でできなくなっていること 『うさぎ!』初期の難解さの、意味 小沢健二さんの今、『うさぎ!』読者の今 ✦ 小沢健二に聞く ひふみよツアーのメンバー紹介と、曲・音の紹介 イメージ管理と実体(タイガーウッズさん) 各国でかかる大衆音楽 日本の部品・道具の精密さ 法の外の場所で ✦ 15年ぶりくらいに読んだ小沢健二さんの文章が、「小沢健二に聞く」でした。 一年か二年前、久しぶりに「小沢健二」で検索してたどりついた文章。 「エコ活動に没頭している」という記事を読んでいたし、『うさぎ!』と併走していなかったので、必死に読んだけどほとんど意味が分からなかった。 全然意味が分かっていなかった、ということが、今再読してみて初めて分かった。 『ドゥワッチャライク』は併走で読んでいて、切り抜いてボロボロになったのが今もプラスチックのファイルに入っているのだけど、その感じとはかけ離れた重い手ごたえだった。分からないながらも。 ぜひ『うさぎ!』三巻の後に再読してみてください。   うさぎさんのことが少し分かってきて読むと、 もっとおもしろいです。 ひふみよツアーの録音から香る、新しい匂いに気づく。 日本の機械。日頃、ミシンを使うことが多いのですが、日本のミシンもすばらしいと思う。 二万円くらいで十年保証、何十着つくってもびくともしない機械が手に入る。 日本の手芸界のアフターサービスはかなり頼れます。布専門店の世話の良さよ。 それも、主に「おばさん」たちがつないできたからなのかもしれない。 ✦ 目次に戻る

第18話/戦いの一局面が、終わる

主な話者:きらら 「私は今死ぬ。けれど後で、私の意思を継ぐ何百万人がやってくるだろう」 636頁 銅山の国で語り継がれる、カタリの言葉。 今、その戦いの新しい局面にひとつの結論が示されようとしていました。 「白人」という言葉を避けようとして違う言葉にすりかえられること 黒人音楽の底流にある、白人の視線を意識したメッセージ 「豊かな」国の様子。その、まったくゆたかではない様子 うさぎたちは、戦いの新しい段階を見届け、銅山の国を後にします。 お話は、人から人へと伝えられて。文字として書かれないまま、真実は人から人へと届けられていきます。 ✦ 参考文献として挙げられている“ハワードズィンさんの『ア・ピープルズ・ヒストリー・オブ・ユナイテッド・ステイツ』”は日本語翻訳版もあり(ハワード・ジン『民衆のアメリカ史』上、下巻、明石書店、2005年)。 ✦ 第16話から第18話の、沼の原篇のクライマックスは、ぜひ続けて読みたい。 第18話、先に読んでいたのですが、まとめて読むと印象がまったく違う。おもしろいです。こんなに違うなんて。 調律していく感じというのか。 この音、もっと高いのか、低いのか。高くしてみる。ちょっと高すぎる。低くする。今度はちょっと低い。もう少し高くしてみる。あれ?もしかしてもっと上? と、少しずつ響きを変えていく感じ。 物語を読むうちに、少しずつ、ゆらゆらと変わっていくのだと思う。 感じ方が。考え方が。 光景が、全巻読む前よりも、くっきりと想像できるようになる。 平和市の周りをぐるりと囲む、インディオたちの黒い影。 道路封鎖で血が止まった市場。封鎖が解かれてどっと流れ込む新鮮な血(物資)。 そこにいた著者の眼差し。空の青さ。 なぜこのお話が日本語で書かれているのかも想像できる。 まるで仲間に、友人たちに、話すように。書き言葉でなく、会話をして話を手渡すように。 そのための形なんじゃないか。 どこにあるかもよく分からなかった遠い国での戦いが、自分の先輩たちの戦いに思えてくる。同じ時を生きる、先達。 考えていこうと思う。今からのこと。今までのことにも目を向けて。 ✦ 目次に戻る