「トランプを一枚」報告書
始まり
2012年6月17日、名古屋・栄。前日にウェブで告知のあった小沢健二さんの「トランプを一枚」スカイ
プトークショーが、予定の20時を過ぎたところで始まる。
整理券の列は早朝から出来始めた。参加者は80名。20代から50代の男女さまざまな層が姿を見せた(なかには子どもの姿も)。
さて、開場前、ポップアップショップ前に、参加券入手順に並んだ参加者たちにトランプが配られる。
青と赤のトランプ群。絵柄は抜かれていたそう。好きなものを並んだ順に一枚。どういう意味なのかはスタッフにも分からないという。
20時過ぎ、トランプ・展覧会半券・入場整理券を持った参加者は順番に会場の中へ。好きな場所に床へ座る。壁に映し出されているのは広い緑の風景。芝生、木々、晴れている公園のようだ。
参加者の入場が終わり、音楽(「我ら、時」収録の「いちごが染まる」)がとまり、しばしの静寂。そ
して小沢さん本人が現れた。
短めの前髪、トレードマークの紺と白の長袖ボートネック、臙脂のオリジナルスカーフを首にたゆませてくるくると巻いた姿。会場内、拍手と歓声に包まれる。
イヤフォンをつける小沢氏。そして会場との通信を調整する数分間。複数つないだスカイプの他ラインから雑音が出るということで、調整がなされる。パルコスタッフとのやりとりは厳しい表情。職人の顔が覗く。
小沢さんより趣旨説明
「日常にすべてがあると思っていて。『東京の街が奏でる』の最終夜、演るものは全部やってはけて、でも全然拍手がやまなくて、もう一回舞台に出て、言った言葉『日常に帰ろう』。
これ、前から用意していた言葉じゃなく、あのときに降ってくるように言った言葉。でもこの言葉がぴったりきていると思っていて。ひふみよは日常の隙間を表現したもの。展覧会でも他の国の日常を見せた。人々の日常がどんなものなのか、にもとても興味がある。今日は、みんなの大ニュースを・・・それはお相撲さんの不祥事とかではなく(笑)、自分にとって『これ、人に言いたい!』というニュースを聞かせてほしい。トランプを引くので当たった方から聞かせてください。できれば自己紹介も・・・」
会場からは「えー!」のどよめき。小沢、会場の反応に笑顔、照れたようないたずらっぽい顔でトランプシャッフル始める。スペードの七。
一人目:ひふみちゃんの話
当たったのは男性。自分の子どもの話。――妻とともにファン。ひふみよライブに参加、そのときに子どもを授かる。名前は「ひふみ」に。苗字に「よ」がつくので「ひふみよ」揃い。今朝、初めて一人で立った。
小沢さん「おおー!すごい!おめでとうございます」とのけぞる。「すごい話、これ以上ない話。すごくうれしいし、なんかこう胸がどきどきする。いや、やっぱりトランプいいですね、おもしろい。最初から最高の話が聞けました。じゃあ、もういいですね」
と、小沢さんは立ち上がり画面から消える。「うそです」と戻る。会場爆笑。
二人目:ギターを始めた話
女性。最近アコースティックギターを始めた。まだまだ下手だけど練習しているという話。
小沢さん「すばらしいですね」と笑顔。「初めはうまくいかなくても、ある瞬間を過ぎると、弾けるようになるのでがんばって。もし弦が硬くて指が痛くなるようなら、クラシック用のナイロン弦に替えてみるのもいいかも」とアドバイス。
三人目:恋人の話
女性。先月恋人が亡くなったという話。ひふみよには一緒に参加し、いい思い出。今はずっと「天使たちのシーン」を聞いている。ぴったりくる。歌詞を都合よく解釈してしまっているかも・・・。
小沢さん「・・・」眉間にしわを寄せて長らく沈黙。「・・・なんとも言えないです、これは・・・」
目を押さえ、目元を隠す仕草。会場内の空気もぐっと張り詰める。
「『天使たちのシーン』という曲は、フリッパーズギターをやめて、これからどうしようか、(という方向性が)固まってない頃にできた曲で。そのとき、スカパラの青木さんが『じゃあおれがたたくよ』と言ってくれた。こんな形でつながりたくはないと思うけど、(死という点で)つながっているのかなと思う。一緒に、生きていきましょう。
それから、歌詞で「これこうだ」「これ分かった」と思ったら、それは絶対にその通りです。間違いじゃない」と歌詞解釈について触れた。
会場からは発表者に向けて大きな拍手が沸いた。
四人目:じゃがいも二箱
しんみりとした空気の中、トランプがひかれる。男性。彼女の両親と結婚申し込みの会談。彼女は泣いてしまうし、全然うまく話せなかった。重い時間を過ごし、微妙な空気の中、おみやげにじゃがいも二箱を持たされて帰宅。子どもの名前、うちもひふみにしていいでしょうか。
小沢さん、笑顔を見せて「じゃがいも二箱が効いてますね。そういえば第五夜の大川さん、妊娠した体で演奏してくれた。お幸せに。子どもさん、励んでください」(会場から笑い)
五人目:ミュージシャンとの握手会の話
女性。塾の先生。「小沢さんとは別のミュージシャンの方のことなんですけど」小沢さん「はい、どうぞどうぞ」と笑顔。ファンサービスしない大好きなミュージシャンが最近変わって、握手会をしてくれた。大好きな思いを伝えたかったけど、ぜんぜんうまく話せなかった。
小沢さん「そういうの、こっちもどきどきするんですよね。NYで歩いてて時々『小沢健二さんですよね』とかって声をかけられるけど、うまく返せない。こっちにはこっちの日常があって、日常と日常が激突する。こっちの日常の中で『おなかすいたなー』とか『次の待ち合わせ時間は』とか歩いてるときに突然声かけ られると反応できない。『今急いでますんで』とか言ってしまって、いや別にそれほど急いでないじゃんよとかって(笑)。こっちもこっちで『しまったー』と 思ってる」
ツイートOKの話
ちょっと画面から離れて、小沢さん「今、別の場所でツイッター を見てる友達がいて、その人が『話の内容も濃いし、ツイートもすごくおもしろい』って言ってます」との報告。
「ツイッターは文が短い。そこに主観で受け取った内容が書かれるから、誤解は誤解のまま伝わってしまう。それはよくないことなのかもしれないけど、新しいコミュニケーションの形として注目してる。そう、オーセタカーエネ(ozkn)ドットネットを見ても、みんな文や絵がうまい、巧み。だからツイートはOKにしたんです。そういう(文や絵が得意な)似た人が偏って集まっちゃう、っていうのもあるけ
ど、そういう人が僕の音楽を聴いて育ってくれて、うまく読めるし書けるようになってきたと実感する。 ポンキッキーズでくまの着ぐるみの僕を見て(会場笑い)、『何だ、この人』ってなって、『これだこれだ』ってライフなんか聞いて、それを握って育ってくれた人がいるって本当に光栄だし、うれしい。どんな人が自分の音楽を聴いてくれているかって、歌を出してすぐには分からない」
六人目:無農薬野菜とカジくん
女性。昔渋谷で無農薬野菜を小沢に贈った。「ああ、覚えてます」の言葉に会場「いいなー!」。ニュースは階段の上から下まで落ちたこと。カジヒデキさんもファンで、落ちたあとに足をひきずってカジさんのライブに行って、ライブ前に食事しようとお店に入ったら目の前にカジさんがいた、そのこともニュースと。 女性「カジヒデキさんもファンなんですけど」との言葉に小沢さん「はい、どうぞどうぞ(笑)。大丈夫です、知ってます」と笑顔で。
小沢さん「ほんと、日常は不思議なことに満ちてる。予定して話していたら、絶対聞けなかった話。日常って本当に、何よりすごい。カジくんの話にしても、すごい偶然で、確率低いことですよね」
七人目:トイック高得点
男性。デザイナーを目指してて、今日もカラーコーディネーター試験受けてきたところ。ニュースは先日のトイックテストで高得点とれたこと。(小沢さん「トイックって、英語ですよね?」)
小沢さん「ここ、ロードアイランド州なんですが、近くに有名な大学があって。調べたいことがあってそこの図書館で勉強してるんですよ。覚えるだけの勉強は つまらないって、学ぶことを切り捨てることもできるけど、何とか折り合いをつけて勉強を続けると、役に立つこともある。今、勉強するのが楽しい。勉強したいことを勉強すること。覚えるんじゃなくて考える勉強」
八人目:閉店
女性。五年育児休業してようやく復帰した仕事先が、閉店することに。
小沢さん「それこそニュースですよね。新聞でニュースになってることとかも、『これ自分と関係ないよなー』っていう話多いですよね」
九人目:事情によりミュート、そして箱の話
小沢さん「この前の大阪の『うさぎ、エクスクラメーションマーク、スペースをめぐる冒険』のとき、聞いてた友達が「箱の話よく分からなかったって言ってたのでその話を。九人目の方の話、公にできない。その公にしない、オープンにしないことの効果って大きくて。もちろんオープンになることでメ
リットもある。 でも何でもオープン、オープンっていう方向になる必要はなくて。作品集の箱もそうなんですが、空間を区切ること、覆い隠すことで濃くなるっていうこともある。閉じられた空間は必要」
終わりに
パルコスタッフに終了時間オーバーを心配する小沢。そして自身のPCバッテリも残り少ないという。
そして次の日曜のイベントの告知。
小沢さん「知っている人、たとえばBOSEくんとかと話すのは、お互いに知っているから効率がいい。今日みたいに、日常と日常を激突させての会話は、どっきりするし、すらすらとは行かない。刺激がありすぎる場合もある。でもこのところ箱、コンサート、展覧会、と出すほうが多かったから、今日はみんなにもらいたくて。もらった話をにぎりしめて、生かしていきます」
PCバッテリの警告が出た、と言う。小沢「今日は本当にありがとう」と言うと、スクリーンはふっと、消えていった。
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貴重な時間をありがとうございました。
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(参考:ツイッターまとめと自らの記憶とメモ)
注:録音はしてません。
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